移住前は、日本で有名なガラス工房に勤め、職人としての技術や表現力を高めながら、独立のノウハウも学んでいきました。そして工房で働いて約10年経ったころ、独立し自分の工房を構えることを決意。
私は神奈川県の街の中で生まれ育ちましたが、両親のふるさとのような田舎の方が、山があって、空は広くて、好きなんですよね。それに温泉も好きなんです。なので、工房を構える場所も、「山と温泉がある街」を理想の一つとして探していました。
北関東を中心にいろいろな移住先を探しましたが、渋川市の空き家バンクでいい物件に出会えたこと、そして物件のある地域が、暮らしの理想と生活の条件のバランスがよかったことが、渋川市に移住を決めた理由です。
一方で、自然・温泉・観光・歴史・災害・交通などの暮らしに関わる環境のバランスがとれていることや、神奈川の実家に帰りやすいことを現実的な条件として考えていました。
ひとりのガラス職人として独立するにあたって、そんな条件を考えながら移住先を検索。そこで活用したサービスが自治体の「空き家バンク」。空き家バンクを活用して出会ったのが、私が購入した物件なんです。
見晴台温泉街とときわ通りをつなぐ階段に、山の斜面に沿うように建っているのが特徴の物件。2件の店舗がつながっていて、昔ラーメン屋だった建物をギャラリーとして、美容室だった建物を工房として使っています。
空き家バンクで理想的な物件に出会えたので、地域の環境についても調べていきました。
すると、渋川市は鉄道や高速道路など意外と交通の便がいいことを発見。地盤がしっかりしているから地震も少なく、立地的に水害など自然災害リスクも少ない。冬は冷え込むけど、雪はあまり降らない。
調べていくうちに、「住みやすい場所」だということがわかり、渋川市への移住を決意。温泉地なので気軽に温泉に行けるし、ちょっとした散歩感覚で山歩きができるのも、この地域を選んだ理由の一つですね。
実際に移住してみると、街のみなさまが「ガラス工房やるんだってね!」と快く迎えてくださってホッとしました。実は、物件を仲介してくださった不動産会社の方が、伊香保に住む人達や宿の女将さんたちに、私のことを紹介しておいてくださったんです。後から知ったのですが、顔が広く、気さくな地元のキーマンで、この方の存在はありがたかったですね。
伊香保は、観光を中心とした商売の街。今では空き家が増えてしまったり、コロナ禍で客足も遠退いていたりしているので、街のみなさまの中にも、地域に新たな人の流れをつくるきっかけが生まれたら、という想いもあったのではないかと思います。
地域のキーパーソンも、定期的に「どう?がんばってる?」と声をかけにきてくださるし、渋川市役所の方も、物件を修繕するための補助金申請を案内してくださいました。
移住をして地元の方に応援していただけるのは心強いし、自分と地域との距離がぐっと近づくような感じがしました。
私も、渋川市を盛り上げるために渋川市や伊香保っぽいオリジナルのデザインを作ってみたいですね。他にも、ガラス製品と地域のキャラクターとのコラボも面白いと思います。まだ試行錯誤段階ですが、渋川に足を伸ばしてもらうきっかけとなるようなものを作っていきたいです。
私自身、移住前ははやる気持ちもありましたが、実際に工房を構えて仕事や生活が始まった後のこともよく考えたし、事前に何度も渋川市を訪れ街の様子や移動距離を体感しました。
移住は、「観光」に行くのではなく、地域の中で「暮らし」を続けること。その土地の気候や、車は必要か、買い物にかかる時間なども考えておきたいですね。
それに、街とつないでくれる地域のキーパーソンや、移住支援窓口、行政のみなさまとつながることも大切です。街のみなさまのサポートがあるからこそ、スムーズに街の中に溶け込んでいけるのだと思います。
理想を求めて移住を考える熱さと、無理のない暮らしを考えた冷静さを持つこと。そして、地域をつないでくれる人と出会うことが、理想的な移住につながるのではないでしょうか。
神奈川県横浜市出身。有名なガラス工房で腕を磨き、独立を機に渋川市へ移住。空き店舗を改装し、制作体験もできる工房と展示販売のショップ「伊香保ガラス工房 吹々」を構え、日々創作に打ち込んでいる。
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