徳冨蘆花記念文学館

お知らせ
休館日について
徳冨蘆花記念文学館は、令和6年4月1日(月曜日)から、毎週金曜日が休館日となります。
また、年末年始は12月29日から翌1月3日までが休館日となります。
11月の文学館
気温が下がる中、文学館の庭園の紅葉も散り始め、苔の上に紅葉の絨毯を広げました。今しか見られないこの景色をぜひご覧ください。

(庭園前)
(令和7年11月19日撮影)
今回は、前回掲載した「利根の秋暁」の続きと思われる「大海の出日」を紹介します。明治29年11月4日の銚子から望む日の出の情景を美しい文章で表現しています。風景を想像しながらお楽しみください。
枕を撼かす濤聲に夢を破られ、起つて戸を開きぬ。時は明治二十九年十一月四日の早暁、場所は銚子の水明樓にして、樓下は直ちに大東洋なり。
午前四時過ぎにもやあらむ、海上猶ほの闇らく、波の音のみ高し。東の空を望めば、水平線に沿ふて燻りたる樺色の横たふあり、上りては濃き孛藍色の空となり、こゝに一痕の弦月ありて、黄金の弓を挂く。光さやかにして、宛ながら東瀛を鎮するに似たり。左手(ゆんで)に黒くさし出でたるは犬吠埼なり。岬端の燈臺には、廻轉燈ありて、陸より海にかけ連りに白光の環を畫きぬ。
暫くする程に、暁風冷々として青黒き海原を掃い來り、夜の衣は東より次第に剝げて、蒼白き「暁」の波を踏みて此方へ〃〃〃と近寄る狀も指點す可く、磯の黒きに濤白く打かゝるさまも漸く明になり來りぬ。眼を上ぐれば、黄金の弓と見し月も何時か白銀の弓とかはり、燻りて見へし東の空も次第に澄みたる黄色を帯びぬ。淼々(べうヽ)たる海原に立つ波の、腹は黒ふして背は蒼白く、夜の夢は猶海の上にさまよへど、東の空已に睫を開きて、太平洋の夜は今明けんとするなり。
已にして曙光は花發くが如く圏波の廣まる如く空に水に広がり行きて、水いよヽ白く、東の空ますヽ黄ばみ、弦月も灯臺もわれと薄れ行きて、果てはありとも見へずなりぬ。此時日の使とも覺しき渡り鳥の一列鳴きつれて海原を掠めて過ぐれば、大瀛の波と云ふ波は盡く爪立ちて東の方を顧み、一種待つあるのさゞめき――聲なきの聲四方に滿つ。
五分過ぎ――十分過ぎぬ。東の空みるヽ金光射し來り、忽然として猩紅の一點海端に浮かみ出でぬ。驚破、日出でぬ、と思ふ間もなし。息をもつかせず、瞬く間もなく、海神が手もて擎ぐるまゝに、水を出づる紅點は金線となり、黄金の櫛となり、金蹄となり、一搖して名残なく水を離れつ。水を離るゝ其時遅く、萬斛の金たらヽと昇る日より滴りて、萬里一瞬、此方を指して長蛇の如く大洋を走ると思へば、眼下の磯に忽焉として二丈ばかり黄金の雪を飛ばしぬ。
令和7年度企画展「紙芝居展」
11月5日(水曜日)から12月25日(木曜日)までの期間で、「紙芝居展」と題しまして、群馬県立土屋文明記念文学館の移動展を開催しています。
紙芝居は、昭和5年頃に「黄金バット」や「鞍馬天狗」などの街頭紙芝居として登場した日本特有の文化財です。本展では、紙芝居のルーツをたどり、最初期の街頭紙芝居から教育紙芝居などさまざまな紙芝居とその歴史を紹介します。

11月に入り、だいぶ寒くなってきました。撮影日の11月3日は、日中でも10℃を下回る気温でした。伊香保へお越しの際は、調節できる服装でお越しください。

(庭園前)

(記念館前)

(終焉の間からの景色)
(令和7年11月3日撮影)
蘆花先生の作品のひとつである「自然と人生」の中に「自然に対する五分時」という短編集があります。今回は、今の時期と同じ11月に記した「利根の秋暁」を紹介します。蘆花先生が茨城県神栖市息栖で過ごした、明け方の小見川の風景を綺麗な文章で描写しています。景色や色合いを想像しながらお楽しみください。
先年秋十一月の初旬、利根の左岸の息栖と云ふ所に泊まつた。此處は利根の本流が北利根北浦の末流と落合ふて來るので、川幅が濶く、對岸(むかふ)の小見川迄は小一里もあらふ。宿は値ぐ水邊にあつて、夜中に眼を醒ますと、櫓の音が軋々(ぎいぎい)枕頭に聞へる。
黎明(あけがた)に起きて、宿の者は未だ寝て居るので、窃と戸を明けて、河邊に出ると、其處に薪がつむである。霜を拂つて、腰かけた。未だほの闇い、空も河面も茫として鉛色(えんしよく)であつた。直ぐ裏の方の闇い小屋の中で、鶏が勇ましく暁を告げると、餘程經て川向ふの小見川の方から、さも微かな鶏の音が聞へた。大河を隔てゝ呼びかはす此鶏聲は、實に宜い、チエルシアの賢とコンコルドの哲とは實に斯くの如く大西洋を隔てゝ呼びかはしたのであらふ。抑も亦た自分が眼には、暁は此の兩岸の鶏聲の間から河面に湧き上がつて來る様に思はれた。暫くすると、小見川の方の空がぼうつと薔薇色になつて來た。と見ると、河面も薄紅を流して、ほやりほやり水蒸氣が見へて來た。實に迅い、瞬きをする間もないのである。夜は川下の方へ流れて、曙の光は四邊に満ち満ちて居る。鶏は猶鳴きつゞける。空と水の薔薇色が少し褪ふ。忽ち晃々(きらきら)と眼ばゆき光が水に流れる。ふり顧り見れば、朝日は杲々(こうこう)として今息栖の宮の森の梢を離れたのである。其の梢離るゝ烏一羽、朝日を負ふて、宛ながら暁を告げ渡る神使の如く、凜とした朝(あした)の大氣に羽搏つて、小見川の方へ飛んで行く。小見川は未だ碧々とした朝霧に眠つて居る。
對岸(むかふ)は未だ眠つて居るが、此方の村は最早さめた。背後の芧舎から煙が立上る。今柵を出た家鴨は足跡を霜に印て、刮々(くわつくわつ)呼びながら、朝日を碎いて水に飛び込む。川楊の枝に小鳥が囀へづる。今起きて來た村人が、白い息を吹き吹き川に下りて、河水を掬(むす)んで嗽(くちそゝ)ぎ、顔を洗ひ、それから遙かに筑波の方へ向いて、掌を合はして拝むで居る。
あゝ實に好い拝殿、と自分は思つた。
10月の文学館
朝晩の冷え込みは、すっかり秋めいてきました。
文学館からの景色も秋の訪れを感じるものとなってきています。

(庭園前)

(記念館前)


(記念館前のホトトギスが綺麗に咲いています。)

(終焉の間からの景色)
(令和7年10月8日撮影)
蘆花先生の作品のひとつである「自然と人生」、その中には蘆花先生が自然と共に過ごした景色を綺麗な文章で表した短編集があります。
今回はちょうど今の時期と同じ10月の栃木県塩原温泉郷付近の景色を記した「空山流水」を紹介します。
或年の秋、十月の末であつた、自分は鹽原箒川の支流鹿股川の畔の石に腰かけて居た。前夜凩が烈しく吹いて、紅葉は大抵散つてしまつて、川床は殆んど眞紅になつて居た。右も左も見上ぐる程の峰が細長く青空を限つて、空にも川が流れて居るかと思はれた。秋末の事で、水は痩せ、涸れに、涸れて、所謂全石の川床の眞中を流れて行く。川床は峰と峰との谷間をくねつて、先下りになつて居るから、遠くまで流の末が見へる。恰川の末に一高峰が立ち塞がつて、遠くから見ると川は其峰に吸ひ込まれるかの様に思はれ、又山が、「此處に居なさい、里に出て何になる、居なさい、居なさい」と水の流を抱き止める様にも思はれる。
併し水は底の石を流ひ、紅葉の柵を潜つて、歌ひながら流れて行く。石に腰かけて、聞いて居ると、其音!松風、人無くして鳴る琴の音、何に譬へて宜からう?身は石上に坐しながら、心は流水の行末を追つて、遠く、遠く、遠く--あゝまだ仄かに聞こへる。
今でも半夜夢醒めて、心澄む折々は、何處かに遠く遠く此音が聞へるのである。
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施設の概要
小説「不如帰(ほととぎす)」で有名な明治の文豪、徳冨蘆花は自然豊かな伊香保を気に入り、何度も足を運びました。徳冨蘆花記念文学館では、蘆花が定宿としていた旅館の離れを移築・復元し、記念館として公開しています。
ほかに、当時の「写真や書簡、遺品、文学作品など蘆花に関する様々な資料を揃えた展示館もあり、豊富な展示資料からは蘆花の生い立ちや、時代背景についても触れることができます。
利用案内
開館時間
- 8時30分から17時00分(入館は16時30分まで)
観覧料
- 一般大人350円、小中高校生200円
- 団体(20名以上)大人300円、小中高校生150円
ただし、障がい者手帳等をお持ちの方と付き添いの方1名まで無料です。
休館日
- 毎週金曜日
- 12月29日から翌1月3日まで
写真紹介

常設展示室

記念館玄関

蘆花終えんの部屋
イベント情報
企画展
錦絵展
- 日程:令和7年5月5日(月曜日)から6月30日(月曜日)まで
浮世絵展
- 日程:令和7年7月5日(土曜日)から8月31日(日曜日)まで
夢見る女性誌展
- 日程:令和7年9月6日(土曜日)から10月30日(木曜日)まで
紙芝居展
- 日程:令和7年11月5日(水曜日)から12月25日(木曜日)まで
絵双六と絵はがき展
- 日程:令和8年1月4日(日曜日)から2月28日(土曜日)まで
渋川の碑めぐり展
- 日程:令和8年3月5日(木曜日)から4月30日(木曜日)まで
追悼お茶会
蘆花を偲び、月命日に「静翠会」による追悼茶会を開催します。
日程
- 令和7年5月18日(日曜日)10時から15時まで
- 令和8年1月18日(日曜日)10時から15時まで
金額
- お一人さま500円
アクセス
バス
「伊香保バスターミナル」下車徒歩10分[該当バス路線は下のとおり]
- 渋川駅~伊香保温泉線(関越交通バス)
- 伊香保~榛名湖線(群馬バス)
「伊香保案内所」下車徒歩3分[該当バス路線は下のとおり]
- 渋川駅~水沢経由伊香保線(群馬バス)
- 伊香保~高崎線(群馬バス)
- 水沢シャトルバス(群馬バス)
「伊香保石段街」下車徒歩3分[該当バス路線は下のとおり]
- 渋川駅~伊香保温泉線(関越交通バス)
- 東京・新宿~伊香保・草津温泉線(JRバス)
経路検索にはGunMaaSが便利です
目的地までの路線バスや鉄道の経路検索に、スマートフォン専用サービス「GunMaaS」をご活用ください。
GunMaaS(https://lp.g3m.jp/)
お問い合わせ先
徳冨蘆花記念文学館
所在地 群馬県渋川市伊香保町伊香保614番地8
電話番号 0279-72-2237
ファクス番号 0279-72-2237(電話番号と共通)











